総合テーマ・二酸化炭素と地球(その2)
地球の気温と二酸化炭素
図5は過去20万年間の気温の変化を表しています。170万年前に第四紀と呼ばれる時代に入ってから、地球の寒冷化が顕著になってきました。氷期と呼ばれる寒冷期が繰り返し地球をおそっています。最近では2万年前をピーク(図5矢印)とするウルム氷期がありました。現在は氷期と氷期に挟まれた温暖期にあたります。
気温の変化と並んで注目されるのが、二酸化炭素(図6)やメタン(図7)のグラフです。二酸化炭素、メタンなどは温室効果気体として知られています。太陽から地球に届くエネルギー(太陽放射)は主に可視光であり、一部は反射吸収されるにしろ、その約半分が大気を透過して地表にまで達します。これに対し、地球から宇宙へ逃げてゆくエネルギー(地球放射)は赤外線です。赤外線は二酸化炭素などに吸収されやすく、その結果、大気は暖められます。このようなしくみを温室効果と呼びます。温室効果がない場合、地表の平均気温は−18℃になるはずですが、実際の地表は15℃です。その差33℃分が温室効果によるものです。このように、温室効果は地球の気温を左右する重要な要素です。
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図5 過去20万年間の気温の変化 図5、6、7は南極の氷床コアの分析による。地球温暖化を検討するために国連機関などが共同してつくったIPCCの研究による。 約2万年周期で変動しながら徐々に寒冷化し、10万年周期で突然温暖化するという、ノコギリの歯形のパターンが特徴。 (IPPC,1990を改作) |
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図6 同じく二酸化炭素の増減 気温の変化とほぼ同じパターンで増減している。 |
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図6 同じくメタンの増減 メタンは大気中の量は極めて少ないが、強い温室効果を持ち、大気の温室効果の20%を担う。 ![]() |
三者のグラフを重ねてみると、形がよく似ていることが分かります。ここまでの話で、「温室効果気体の増減が地球気温の変化を引き起こした」と考える人がいるかも知れませんが、そう簡単にはいかないのが、この話の難しいところです。と言うのは、相関があることと、因果関係は、全く別の話だからです。雲や降水などの気象現象、氷床の消長や海洋全体の大循環は、お互いに影響しあう複雑な因果関係に結ばれていて、そのしくみの解明は容易なことではありません。*2 それらと温室効果も複雑なシステムをなしていて、今年出した二酸化炭素が、来年の夏を暑くする、と言った単純な話ではないのです。現に3者のグラフには、かなりずれるところもあります。このグラフの横軸目盛をよく見れば、そのわずかなズレでも、私たち人間にはとても大きいことが分かります
地球温暖化
図8を見ると、20世紀の100年間で地球の平均気温は0.8℃上昇したように見えます。この、「100年で約+1℃」という変化を私たちはどう受けとめたらよいのでしょうか。図5や図7から分かるとおり、地球の気温は一定ではありません。ウルム氷期終了後の気温上昇(図7矢印)など、かなり激しい上昇もあったようです。ウルム氷期後、農耕が始まり文明を持った1万年前以後に限っても(図7緑色曲線)、±1℃くらいの変化は見られます。縄文海進で知られる6000年前は世界的な温暖期(ヒプシサーマル期)であったし、逆に数百年前の一時的な寒冷期は小氷期と呼ばれています。現在の「100年で約+1℃」という変化が、自然の変動の範囲を越えた上昇であるのか、それが人間のせいなのか、判定は微妙です。しかし総合的に見て、これは人為的な気温上昇であると考えられ、これを地球温暖化と呼びます。
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| 図7 1万年前(文明以後)の気温変化 数千年前の温暖期はヒプシサーマル期と呼ばれ、日本の縄文海進に相当する。逆に16〜18世紀頃は小氷期と呼ばれ、ヨーロッパではかなり寒冷な気候であったことが知られる。 |
図8 20世紀(現代文明)の気温変化 小刻みに上下しながらも、全体として100年間で0.8℃程上昇しているように見える。このようなグラフだけから直ちに気温変化を明言することはできない。1970年頃には、逆に寒冷化を心配する声もあった。 |
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図9 1000年前からの二酸化炭素の変化 産業革命(化石燃料使用)の進行した19世紀以後の二酸化炭素の急増を表す。とりわけ20世紀後半は激増している。 南極やグリーンランドの氷床コアの分析、ハワイ・マウナロア山での観測による(IPPC,1994) |
今度は最近の二酸化炭素の変化を見ましょう。図9を見ると、最近200年間で二酸化炭素は0.028%から0.036%へと、3割近く増加したことが分かります。この変化は先ほどの図6にも表してあります。二酸化炭素に関しては、かつて例のない極端な増加であることが明らかです。二酸化炭素が増え始めた19世紀はちょうど産業革命が進行して、化石燃料の使用が増加し始めた時期と一致します。20世紀後半の石油の大量消費時代にはいると、二酸化炭素はますます激しく増加しています。この二酸化炭素の異常な増加は、明らかに人間によるものと断言できます。そして、その二酸化炭素が強い温室効果を持っているのです。
このまま二酸化炭素が増加して、21世紀末に現在の2倍(0.07%)にまで達すると、気温+1〜4.5℃、海面+10cm〜+1mの変化が予想されています。また雨の降り方が極端になり、洪水・干ばつなどがより現れると予想されています。将来予測をコンピュターでシミュレーションするときも、使う計算モデルによりかなり違いがあり、本当のところどんなことが起きるのか、よく分かりません。しかし、多くの研究者によると、少なくとも大した変化が起こらない確率は低く、かなりの温暖化が高確率で予想されています。文明の壊滅とも言える深甚な温暖化すら、ある確率で予想されています。
地球温暖化に関して研究は進んでいますが、確実な診断がズバリと下されるのを待っていては手遅れになるかも知れません。ちょうど原因のよく分からない病気に対応するような難しさがあります。仮に二酸化炭素が原因だとして、ではどうすれば良いでしょうか。私たちの文明は今のところ化石燃料なしでは考えられません。一部先進国が二酸化炭素を大量に排出し、文明を謳歌してきたという政治的な事情もあります。地球温暖化に代表される地球環境問題は、私たち人類がその歴史の中で出会ったことのない、まったく新しいタイプの問題*3なのです。
| まとめ ・自然の変動の範囲を超えた地球温暖化(100年間で約+1℃)が起きている ・温室効果を持つ二酸化炭素が激増している。それは人為的な現象である ・予測は難しいが、二酸化炭素激増がかなりの地球温暖化を引き起こすのは間違いない ・二酸化炭素対策はどうしても必要であるが、それは遅々として進まない |
*2 図5のような周期的な氷期到来の原因は、よく分かっていません。地軸の傾きや公転軌道の変化により、太陽放射の受け取り方が周期的に変化する(ミランコビッチ周期と呼びます)ことが大きな背景になっているのは確かです。そこに氷床の消長や海洋循環の変化など、さまざまなスケールのシステムの変動がお互いに影響しあって、図5のようになっているらしいのです。
ところで、進歩したように見える科学にとって、なぜこの問題がそんなに難しいのでしょうか。それは、さまざまな因果が絡み合った複雑系の問題だからです。物理や化学の実験が典型ですが、近代科学は物事をなるべく単純化して、1対1の因果関係を公式化してきました。しかし実際の自然はそのように単純ではありません。ちょうど人間関係が公式で割り切れないのと同じです。地球科学や生物学、また社会科学はまさにこの複雑系です。21世紀は精緻な観測網や実験データとコンピュータ・シミュレーションを武器に、まさにこの複雑系科学の時代であると言えます。
*3 地球環境問題とは、地球という有限の物質的空間的資源に対し、人間があまりに増えすぎてしまったということ、一言で言えば人口問題です。ただし、生物一匹ではなく、人間一人が生きてゆくためにどのくらい物質的空間的資源が必要なのか、定かではありません。また、歴史上初めて、人類共通の天井が見えてきた(成長の限界)という点で、人類の生き方(思想)を問い直すことが否応なく迫られます。人類も生物の一員であり、環境に応じた平衡の調節が行われるとすれば、飢餓や戦争による大量死を覚悟しなければならないかも知れません。また、物質エネルギー資源には限界があるが、「情報=付加価値」には限界がないので、「成長の限界」を打破できるという、見田宗介(現代社会の理論/岩波新書)のような考えも可能です。
【参考文献】
地球温暖化で何が起こるか/スティーヴン・シュナイダー(草思社サイエンスマスターズ10、1998年、1800円)
地球環境論/住明正他(岩波書店、岩波講座地球惑星科学3、1996年、3200円)