ホーム目次/第4章 地球と生命の歴史
原始地球生命と地球の共進化化石と地質年代表地殻の進化人類

サブテーマ(解説) 生物進化のしくみ


生態系とニッチ
  よく「生物の世界は競争である」と言います。そうすると「オオカミが襲いウサギが逃げる」シーン(俗に言う弱肉強食)を思い浮かべる人がいるかも知れません。確かに競争(競走)と言えなくもありませんが、生物学ではこれは被食者−捕食者(生産者−消費者)の関係であり、競争とは言いません。それでは競走とは何を指すのでしょうか。エサも住みかもよく似ている、生物A、Bがいたとします。もしAの方がエサを得る能力に優れていたとすれば、Aは生存し、Bはやがて死ぬでしょう。このようにエサや住みかをめぐる争いを「競争」と言います。A、Bは同じ種の個体どうしの場合もあります。あるいは種Aと種Bの場合(種間競争)の場合もあります。両者は実際には重なって同時に起こるのですが、ここでは種間競争としてもう少し考えましょう。
 図1は2種のゾウリムシの種間競争(実験)の例です。左は片方が死滅(絶滅)するまで競争が続きました。右は競争がそこまで至らず共存が成立した例です。この例のように、競争は片方が絶滅するまで続くとは限りません。エサや住みかの好みや許容範囲に関して多少なりともA、Bで差があれば、競争に妥協の余地が生じ、両者ともに生存して一定のバランスを保つこと(共存)が可能です。

図1 種間競争の実験
 2種類のゾウリムシを一つの容器で飼育したときの個体数の増減。左は競争が徹底しオウレリアのみ生存。右は棲み分け(表生−底生)により共存した例。

 実際の生物界にはさまざまな生物が、ある環境の中に混在して暮らしています。そこでは、お互いに被食−補食、種間競争(共存を含む)などの入り組んだ関係ができ、一定のバランスを保つようになります。このような関係の全体を、生態系と呼びます。ある生物が生態系の中で占めるポジションを生態的地位(ニッチ)と呼びます。

自然選択による進化(ダーウィン説)
 19世紀のヨーロッパでは、化石の研究が進むにつれ、それまでのキリスト教的生命観に変わり、生物進化の観念が芽生えました。その中でもダーウィンは著書「種の起源」(1859年)で、生物進化の要因として自然選択というしくみを考えました。その後さまざまな考えが出ましたが、現在に至るまで、自然選択説は進化のしくみを考えるキーワードであり続けています。
 あるニッチの生物Aに注目します。Aの次世代(子供たち)は、Aからもたらされた複製DNA(遺伝子)から生まれるので、Aとそっくりです(A’たちとする)。しかしDNAは完璧にコピーされるわけではなく、多少の変異が生じます。そのため、A’たちの中には個体差が生じます。ところがA’たち全員が生存することはできません。なぜならA’たちは補食−被食や競争の関係の中に組み込まれ、一定のニッチに置かれているからです。そこで、その環境に最も適した変異を持った個体だけが生存します(適者生存)。これが何世代にもわたって繰り返されると、その環境に適したある特定の変異だけが選択され続け、次第にその種自体が変化していきます。このような変化を適応と言います。その結果、オリジナルのAとは異なる生物A’’’’’’→Bが誕生することになります。このような特定変異の選択・蓄積による適応のプロセス全体を自然選択とよびます。生物進化の原因として自然選択を最重視する考え方をよくダーウィン主義(ダーウィニズム)と言います。ダーウィン主義によれば、進化とは一定の環境の下で少しずつ進行する現象であることになります。

断続的な進化
 化石により進化を追いかけてゆくと、新しい種は突然誕生するように見え、進化は少しずつ進行するとした前項のダーウィン説と矛盾します。これは、単に化石が欠落しているからだと解釈されました。確かに、化石は実際の生物史のほんのわずかな部分しか記録していないでしょうから、それは大いにあり得ます。しかし、本当に新種が急激に誕生したのだと考えることも可能です。
 恐竜などの中生代末の大絶滅は、隕石衝突により起こったとする説が1980年代に唱えられたのをきっかけに、生物史の上で大絶滅が注目されるようになりました。大絶滅はそれまで繁栄していた生物の絶滅としても興味深いのですが、たくさんの新種の現れる次の時代の開始点としても重要です。それまでニッチを占めて繁栄していた生物Dが何らかの原因により絶滅してしまい、生き残った生物Eが空いたニッチに進出して急激に進化(適応放散)が起こり、その後はそれほど変化しなくなると考えれば、化石の記録とも調和的です。つまり生物進化には、急激に進化の進行する時期と、そうでない時期があり、環境急変による大絶滅が逆に進化を加速したことになります。

図2 2つの進化説
 左はダーウィンの自然選択を強調した考え方。わずかな変異が長期間蓄積されてA→Bの進化が起こる。地理的隔離によりA→Cの進化が起こる。
 右は断続的な進化(グールドの断続平衡説)による考え方。Dの絶滅により空いたニッチに適応放散することによりEの進化が急激に起こる。その後はEの進化は停滞する。例えば、Dが恐竜、Eがホ乳類にあたる。矢印の絶滅として、もともとは「大絶滅」を想定したアイデアではなかったが、今日的には大絶滅を強調した進化説とつながる。

 


作成2002年2月


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