ホーム/目次/第4章 地球と生命の歴史
原始地球/地球年代表/生命誕生/生物の進化と絶滅/地殻の進化/人類
生命の誕生
腐った肉にウジがわくように、下等な生物は自然に発生すると素朴に信じられていた時代がありました。これを完全に否定したのがパスツール(仏)の実験(1862年)で、「生物は生物からしか生まれない」ことが明らかになりました。同じ頃、ダーウィン(英)の著書「種の起源」などにより、生物進化という考えが広まりました。すると「生命の起源は一体どうなっているのか」と言う根源的な疑問に行き当たります。原始生命は地球にできた物質の化学変化により誕生したとする考え方(化学進化説)と、宇宙から飛来したとする考え方がありますが、現在では前者の考え方が一般的です。ここでは前者の考え方に沿って解説します。現在発見されている最古の化石は35億年前のものであり、原始生命は35〜40億年前頃の海の中で誕生したと、とりあえずは考えて良いでしょう。
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写真1 最古の化石 35億年前のチャートに含まれる繊維状、球状のバクテリア オーストラリア産 |
すべての生命に共通の特徴は、
1)有機物(タンパク質や核酸)のかたまりである=細胞
2)物質やエネルギーの出し入れを行い自己を維持する=代謝
3)自己を複製し増殖する=生殖
の3点です。原始生命の誕生も、この3点に沿って考えてみましょう。
1)・・・炭素C、水素H、酸素O、窒素Nなどからできた複雑な分子化合物を有機物と呼びます。「有機・・」と言うのはもともと「生物の・・」と言った意味で、有機物は生物体そのものであったり、エネルギー源であったりと、生物になくてはならない物質です。アミノ酸(それからなるタンパク質)やブドウ糖(それからなる炭水化物)は代表的な有機物です。生命誕生のためには、生物体の材料であるアミノ酸(タンパク質)がまず必要です。ミラー(米)は原始地球を仮想的に再現した実験装置の中で、放電(火花)のエネルギーによりアミノ酸が生成することを確かめました(1953年)。原始大気の組成は、現在の知識ではミラーの想定とは異なると考えられますが、当時地球にあった無機物から化学変化によりアミノ酸などが生成した可能性はあると考えて良いでしょう。また宇宙や隕石にも簡単な有機物があることが分かってきました。かつて有機物は生物だけが作り出す特殊な物質だと信じられていた時代がありましたが、少なくとも簡単な有機物は無機物の化学反応により案外簡単に生成されるようです。
2)・・・アミノ酸からできたタンパク質のかたまりが代謝を始めるまでにはどんなプロセスがあったのでしょうか。オパーリン(ソ連)は水溶液中のある種のタンパク質のかたまりが、他のタンパク質を吸着したり、放出する様子を観察しました。彼は、このタンパク質のかたまり(コロイド粒子の集まり)をコアセルべートと呼び、これが代謝の始まりではないかと考えました(1936年)。
代謝(化学反応)をつかさどる物質(酵素)はタンパク質からできています。ところがタンパク質は種類が非常に多く、分子構造やその働きも複雑です。タンパク質による代謝の始まりは、まだよく分かっていません。
3)・・・すべての生物は細胞核中のDNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列に従ってタンパク質を合成します。このタンパク質が自身の体そのものであり、代謝や成長をつかさどりもします。DNAは、いわば個々の生物体の仕様書のような存在です。そこで生物の自己複製は、まず自身のDNA(遺伝情報)を複製することから始まります。原始生命が獲得したこのDNA複製システムは、その後の全ての生物に引き継がれています。
以上の1)2)3)は、実際にはお互いに絡み合いながら、原始海洋の中で進行したことでしょう。このプロセス全体を化学進化と呼びますが、確かなことはまだ分かっていません。まずRNAやタンパク質の合成が進み、その後DNAの複製システムが完成したのだと考えられます。誕生した原始生命は、核がない単純な細胞(原核細胞)の生物(原核生物)で、化学合成細菌のようなものであったと考えられます。さらに現生の好熱菌に似たものであったとする考えもあります。現在の海嶺に見られる熱水噴出口(海底温泉)のようなところで生命は誕生したのでしょうか。
生命と大気の共進化
金星も火星も大気の主体は二酸化炭素CO2です。これに対し、地球大気は窒素N2や酸素O2が主で、CO2はわずか0.03%しか含まれていません。実は地球型惑星の大気はもともとCO2が主体であり、地球も誕生当時には金星のように濃いCO2の大気を持っていたと考えられます。地球のCO2が減少した原因は海と生物です。
石灰岩CaCO3に酸(塩酸、酢酸など)をかけると、二酸化炭素CO2の泡が出てくることから、石灰岩にはCO2がいわば閉じ込められていることが分かります。原始地球に大量にあったCO2は、実は大部分この石灰岩に姿を変えてしまったのです。CO2は水に溶けやすい気体であることから、原始海洋ができるとともに海水にはCO2が大量に溶け込みました。これとカルシウムイオンCa2+が化合した炭酸カルシウムCaCO3が海底に沈殿堆積してできた岩石が石灰岩です。この過程は、最初はおそらく無機化学的反応として、後に生物の作用として進行しました。サンゴなどの生物は自分自身の骨格や殻としてCaCO3を用います。これらの生物が死ぬと骨格や殻は腐らずに海底に次々に堆積し、やがて石灰岩になります。石灰岩をよく見ると、しばしばこれらの生物が化石として含まれています。
実習 炭酸カルシウムを酸に溶かす
総合テーマ 二酸化炭素と地球
大気と生物の関係を考えるとき、もう一つ大切なことがあります。それは、光合成です。
光合成は以下のような化学反応式で表すことができます。
| 6CO2 + 6H2O + 光エネルギー → C6H12O6 + 6O2 または CO2 + H2O + 光エネルギー → (C6H12O6)/6 + O2 |
右辺のC6H12O6 (ブドウ糖分子)は生物のエネルギー源である有機物に他なりません。つまり光合成とは低エネルギーの二酸化炭素CO2と水に太陽エネルギーを付加して、より高エネルギーの有機物を合成するしくみです。言いかえると光合成は太陽エネルギーを、使いやすい化学エネルギーの缶詰に仕立て上げるしくみです。
さて、光合成は地球大気にとって、二酸化炭素CO2を消費している、酸素O2を生産しているという2重の意味で重要です。まず前者から考えます。光合成により生産された有機物の一部、例えば枯れた植物やプランクトンが地層に埋もれて、地下に閉じこめられたものが石炭や石油(化石燃料)です。このようにCO2は地層の中に蓄えられ、その分だけ大気からは取り除かれました。
次に酸素O2について考えましょう。地球で最初に大規模な光合成を行ったのはラン藻(シアノバクテリア)と呼ばれる原核生物です。ラン藻はストロマトライトと呼ばれる一種の石灰岩を化石として残すことから、その存在が知られます(写真2)。光合成の排気ガスであるO2は、最初は海水中の鉄分と化合して、酸化鉄Fe2O3になり海底に沈殿しました。このようにしてできたのが縞状鉄鉱層です(写真3)。その後もO2 の排出は続き、大気中のO2 も次第に増えてゆきました。
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写真2 ストロマトライト 最初に光合成を行い、地球大気大きく変えたラン藻(シアノバクテリア)はストロマトライトと呼ばれる層状球状・石灰質のかたまりをつくる。写真は現生のストロマトライトとして、しばしば紹介される西オーストラリア・ハメリンプールのストロマトライト。 NHK地球大紀行展パンフレット(1987)より |
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写真3 縞状鉄鉱層 海水中に増加したO2は鉄イオンFe2+化合し、Fe2O3として海底に沈殿した。この時期、このようにして膨大な酸化鉄が海底に堆積した。現在では重要な鉄鉱石。日本にはない。 (オーストラリア、ハマズリー産) |
| 原始大気 | 起源 | その後 | 現在 | |
| 二酸化炭素 CO2 |
大量 | 原始地球から脱ガス | 石灰岩CaCO3 地下有機物(化石燃料など) |
0.03% ただし文明により増加中 |
| 酸素 O2 |
なし | 生物の光合成 | 縞状鉄鉱などの酸化物 その後は大気中に蓄積 成層圏のO3層 |
21% |
O2は他の物質と反応しやすく、生物にとってはもともと非常に危険な物質です。そのために多くの生物が絶滅したと考えられます。そこで生物はいわば毒ガスのO2に抗してさまざまな適応戦略をみせます。例えば、大事なDNAをO2から守るため、DNAを膜で囲んだ入れ物を持つ細胞ができました。これが細胞の核です。またO2を利用して、よりエネルギー効率の良い代謝(酸素呼吸)を始める細菌も現れました。驚くべきことに、このような酸素呼吸細菌のあるものは、他の大きな細胞中に入り込み、やがて一つの細胞になりました。実は細胞中で酸素呼吸を担う小器官ミトコンドリアの起源は、このように酸素呼吸細菌であったと考えられます*1。このようにして、より複雑な構成と機能をもつ細胞(真核細胞)が誕生したと考えられます。最初の真核細胞は単細胞生物でしたが、やがて多細胞生物へ、そしてより複雑で高度な生物である動物や植物へと、爆発的に進化しました。私たち人間を始め、今日ふつうに見かける動物植物は、そのような生物の末裔と言えるでしょう。
また、O2分子の一部は上空でオゾンO3層になり、地球大気に成層圏が誕生しました。このため、地表には有害な紫外線が届かなくなり、後の生物の上陸を促しました。このように生物と地球環境はお互いに影響し合いながら、その姿を変えてきました。
| 界 | 細胞 | 従属栄養/独立栄養 | 移動性/固着性 | ||
| モネラ界 | 細菌(バクテリア) ラン藻(シアノバクテリア) 古細菌 |
原核細胞 | 単細胞 | 両方あり | 両方あり |
| 原生生物界 | 比較的単純な体制の生物 | 真核細胞 | 単細胞〜 多細胞 |
原生動物(従) 変形菌類(粘菌)(従) 藻類(独)など |
両方あり |
| 植物界 | 植物 | 多細胞 | 独立栄養(光合成) | 固着性 | |
| 菌界 | 菌類 | 従属栄養 | 固着性 | ||
| 動物界 | 動物 | 移動性 | |||
【*1】 マーギュリスの共生説
原生の真核細胞にはミトコンドリア、葉緑体などさまざまな機能を担う細胞小器官がある。これらの起源として最も有力視されているのが、マーギュリスの提唱した共生説である。「生物進化=一方的な枝分かれの歴史」とする常識的な進化観が覆された。
作成2002年2月 最終更新2002年12月