ホーム/目次/第V章 熱い岩石の星・地球
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サブテーマ(解説) マグマの発生
マントルはカンラン岩、つまり固体
「マントル=ドロドロと融けたマグマ」と言ったイメージが持たれがちですが、これは完全な誤りです。マントルは、多少軟らかくなっている部分があるとは言え、あくまで固体です。マントルは主にカンラン岩からできています。図1はカンラン岩が、どのくらいの温度・圧力のもとで固体(岩石)であるか/液体(マグマ)であるかを示しています。水などの純物質と異なり、岩石のような混合物は、融け始めと融け終わりの温度に幅があります。その中間にある融けかかった状態を部分融解と呼び、図1ではを黄緑色で表しています。ところで物質の融点は、温度だけでなく、圧力にもよるので、黄緑色のゾーンが右斜め下に向かっていることに注意してください。さて、地球深部に行くにつれ、温度・圧力は図の青線・赤線のように上がってゆきます。つまり地球深部にでも、カンラン岩は固体のままです。このグラフは地下150kmまでしか表していませんが、マントル深部でも事情は同じです。つまりマントルは高温であるが、圧力も高いので、あくまで固体なのです。
岩石の融解実験
カンラン岩の融解−マグマの発生
それでは、局部的とは言えマグマの発生は、どのようなメカニズムによるのでしょうか。地球上で最も大量に発生している海嶺の玄武岩マグマを例に考えてみましょう。海嶺地下には高温のマントルが上昇して来ています。このような高温マントルの上昇は、地球全体の放熱(マントル対流)の一部です。そこで海嶺の地下では、図1赤矢印のように高温のまま圧力が下がり部分融解が始まります。このようにカンラン岩が部分融解してできる液体が玄武岩マグマなのです。一度できた液体は軽いのでさらに上昇して、海嶺直下のすき間にマグマだまりをつくります。この玄武岩マグマの一部が、海嶺が拡大するときの割れ目から海底に流出し、海底溶岩流(枕状溶岩)となります。また、このマグマだまりが固まってハンレイ岩となり、新しい海洋地殻として次々に両側に拡大してゆきます。(図2)
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図1 カンラン岩の状態(液体−固体)と地下の温度・圧力の関係 岩石は混合物なので、固体と液体の間に部分融解(融けかかった状態)の領域がある。地下深くに行くと圧力が大きくなるので、物質は融けにくくなり、融点は上がってゆく。 一般的な大陸地域(青線)、海洋地域(赤線)の地下では、深さ(圧力)の割に温度が低く、カンラン岩(マントル)は固体のままである。海嶺のように、高温のマントルが上昇してくるところでは、岩石は熱伝導しにくいので高温のまま圧力だけが下がる(赤矢印)。ついに黄緑の領域に入ると部分融解が始まる。このようにカンラン岩の部分融解によりできた液体が玄武岩マグマである。 |
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図2 海嶺地下の様子*3 海嶺下では、高温のマントルから玄武岩マグマが発生し、海嶺直下に集まってくる。海嶺ではプレートが両側に拡大するので、このマグマが玄武岩やハンレイ岩に固結して新しい海洋地殻ができる。部分溶融による液体を失った出涸らしマントルは、やがて冷えて硬くなり、プレートの一部になる。このようにして、プレートは次第に下に向かって厚くなる。 |
氷が融ければ水になります。固体であろうが液体であろうが、同じH2Oです。ではカンラン岩が融けてできる液体は、なぜカンラン岩マグマではなく玄武岩マグマなのでしょうか。それは岩石が純物質ではなく、複数の成分からなる混合物だからです。具体的に言うと、カンラン岩はカンラン石、斜方輝石、単斜輝石の3鉱物の混合物です(写真1)。これが融け出すときに最初にできる液体の化学組成は、3鉱物のどれとも違う、ある特定の組成の液ができます。*1それが玄武岩マグマなのです。マントルはカンラン岩でできているので、マントルで発生するマグマ=玄武岩マグマと考えて良いでしょう。このようなマントル上昇(減圧)→部分融解(玄武岩マグマ発生)は、海嶺に限らず、地球におけるマグマ発生の最も基本的なしくみのようです。その意味でマントルで発生する玄武岩マグマは初生マグマ(本源マグマ)と呼ばれます。
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| 写真1 マントルのカンラン岩 カンラン岩はカンラン石を主に斜方輝石、単斜輝石、スピネル、ザクロ石などを含む岩石。写真はアリゾナ産のカンラン岩ノジュール(噴出する玄武岩マグマに周囲のカンラン岩のかけらが取り込まれたもの)。 |
写真2 玄武岩マグマがしぼり出された後のカンラン岩 マントルのカンラン岩は部分融解して液体(玄武岩マグマ)を生じる。液体が移動した後には、いわば「出がらしマントル」が残る。写真は北海道日高帯幌満岩体のカンラン岩。 |
島弧のマグマ
日本などの島弧のマグマはどのようにして発生するのでしょうか。冷たい海洋プレートがもぐり込む島弧に、なぜ熱いマグマが発生して火山帯ができるのか。現在でも完全に解明されたわけではありませんが、おおよそ次のように考えられます。
海洋プレート表面の玄武岩自身はもともと水分を含んでいませんが、これが海底で海水と反応して水分を含む鉱物ができています。つまり海洋プレート自身が水分を含んでいます。これが海溝からマントル深くにもぐり込むと、高温高圧により水がしぼり出され、周囲のカンラン岩マントルにしみ込みます。ところが水には、物質の融点を引き下げる性質があります。そこで水分がしみ込んだところだけカンラン岩が融けて、玄武岩マグマとなります。このようにしてできた玄武岩マグマがさらにさまざまなプロセスを経て、地表に見られるような安山岩マグマを中心とした多様なマグマになったと考えられます。*2
地球以外のマグマ
火山活動があるのは地球だけではありません。例えば金星や火星にも多くの火山があります。考えてみれば、金星も火星も同じ地球型惑星として熱を放出する運動をしてきたはずですから、その現れとして火山活動があるのは当然です。金星や火星の火山は、地球のもので例えれば、ハワイ島(ホットスポット)のような玄武岩マグマの盾状火山や溶岩台地に近いものです。火星のオリンポス火山のように、地球よりもずっと大きい火山も知られています。火星はすでに冷え切っているので、火山活動も終了したと考えられますが、地球とそれほど大きさの違わない金星の火山は、今後も活動するでしょう。月の海も、遠い過去に玄武岩溶岩があふれ出したもので、広い意味の火山活動と考えて良いでしょう。
また地球以外で噴火が確認された例として、1980年代にボイジャーが発見した木星の衛星イオが有名です。イオの表面にはたくさんの噴火口から硫黄の溶岩が流出した様子が見られ、噴火中の活火山も撮影されました。イオの火山は地球型惑星の火山と異なり、木星からうける重力(潮汐力)により内部が加熱されてマグマが発生し噴火したものです。さらに、海王星の衛星トリトンでは、水の火山らしきものが発見されています。太陽系の外側の小天体は非常に低温で、主に氷(H20だけでなくドライアイスやメタン、アンモニアなどを含む広い意味の氷)でできているので、その一部が融けて水が噴出すれば水の火山ということになります。
【*1】 水を冷やして半分だけ氷になったとします。この場合、できた氷も、残った水も、同じくH2Oです。全部氷になっても、もちろんH2Oです。それでは、塩水を凍らせてみましょう。できた氷はH2Oであり、その分残りはより濃い塩水になっています。マグマが冷えて岩石になる時も似たようなことが起こります。マグマから結晶する鉱物は、マグマそのものとは異なる特定の化学組成を持ちます。岩石の部分融解によりできはじめる液体も、構成鉱物たちとは異なる特定の化学組成を持ちます。このような事情は火成岩形成論の基礎をなす部分で、大学教科書に詳しい説明が出ています。
【*2】 島弧の火山は、大ざっぱに言えば安山岩マグマですが、玄武岩から流紋岩まで非常に多様です。その成因は、永らく岩石学の主要テーマであり、現在も議論が続いています。ここでは簡単に「沈み込んだ海洋プレートからもたらされた水の作用による」としましたが、どのような過程で初生マグマ(玄武岩マグマ)が発生するのか、さまざまなモデルがあります。安山岩〜流紋岩マグマを発生させる過程にも、さまざまな議論があります。例えば、マントルで発生して上昇してきた玄武岩マグマが、天井にあたる地殻下部までやってきて地殻を融解させて流紋岩マグマが生まれ、それと玄武岩マグマの混合により安山岩マグマができるとする考え方が有力です。このような考え方は火山の一生(玄武岩→安山岩・流紋岩)や火山岩の結晶に刻まれた記録とよく合うと言います。
最近では、沈み込む海洋プレートの動きが誘発するマントル対流(高温マントルの上昇)も重視されているようです。また一言で島弧と言っても多様性があり、マグマ発生の過程にも多様性があるかも知れません。
多くの日本人研究者がこの問題に取り組んでいるのは、日本列島が島弧であるという事情もありますが、それだけではありません。地球の大きな特徴である大陸地殻をつくる現場が、島弧であると考えられるからです。島弧マグマの活動が安山岩〜カコウ岩質の島弧地殻をつくり、それがプレート運動の結果、集積合体したものが大陸地殻である、と考えられます。島弧マグマの成因は、高校地学の範囲(と作者の力量)を大きく越えていますが、地球科学の重要テーマの一つです。
【*3】 海嶺のマグマ
地球で最も大量にマグマを生産し放出しているのは海嶺です。海嶺は地球全体に連なりますが、そのマグマは海嶺玄武岩と呼ばれる均一なものです。島弧マグマが非常に変化に富むのとは対照的です。海嶺玄武岩は本説で紹介したように、マントル(カンラン岩)の減圧による部分融解で発生したと考えられます。しかし海嶺そのものは深海底にあるため、陸上のような精度の地質調査ができません。そこでかつての海嶺がその後のプレート運動により陸上に姿を現しているところ(いわば化石海嶺)が注目されます。このような地質体はオフィオライトと呼ばれるものです。オフィオライトは表層より、海底玄武岩溶岩(枕状溶岩)→海底への貫入岩脈→マグマだまりでできた層状ハンレイ岩やカンラン岩→マグマをはき出した後のマントルカンラン岩の順にできています。図に示したような海嶺地下を再現した図は、このオフィオライトからの復元も大いに参考にしています。オフィオライトに限らず、陸上の地質からかつての海底を調べるというやり方が地質学ではよく行われ、日本人研究者も大いに貢献しています。
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写真3 枕状溶岩 海底に噴出した海嶺玄武岩溶岩。これが海嶺両側に拡大する海洋プレート表面(海底)となる。 粘性の小さい玄武岩溶岩がニョロニョロと海底を流れ、「西洋枕」の形をした塊の積み重なりになる。日本の陸上にもよく見られ、海底火山の証拠になる。 (アラビア半島オマーン・オフィオライト、新潟大学・宮下氏のサイトより http://ataka.sc.niigata-u.ac.jp/staff/miyashita/index.html) |
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写真4 層状ハンレイ岩 海嶺地下のマグマだまり深部で、結晶したカンラン石、輝石、斜長石が沈積してできた。斜長石の多い層は白い層になって見える。まるで堆積岩のよう。 (アラビア半島オマーン・オフィオライト、新潟大学・宮下氏のサイトより) |
関連サイト
| 北海道大学・新井田清信氏のサイト http://orange.ep.sci.hokudai.ac.jp/~kiyo/ |
カンラン岩の解説あり |
| 新潟大学・宮下純夫氏のサイト http://ataka.sc.niigata-u.ac.jp/staff/miyashita/index.html |
オマーン・オフィオライトの詳しい産状写真あり |
| 金沢大学・石渡明氏のサイト http://kgeopp6.s.kanazawa-u.ac.jp/~ishiwata/index_j.htm |
水晶玉とガラス玉、オフィオライトの解説、その他岩石学の話題いろいろ |
作成2002年01月 最終更新2002年11月